女性の深層心理を丁寧に描く作風で知られる、
宮尾登美子先生の「蔵」について書きます。
お恥ずかしい話、僕はこの作品を読んで幾度、
泣いてしまったか分かりません。
そして作品と同様、娘を持つ父親となった今、
再び読み返してみると、これまでにない感情が
生まれ、より深く家族の絆だったり、子を持つ
親としての「覚悟」が生まれたように感じます。
僕はこの作品を、中学生で初めて読みました。
そして今、「この物語の中の父親だったら」
と仮定して最近、再読してみたんです。
すると、余りにも苛酷な宿命を背負った娘を
想うばかりに言い争ってしまう父親の心情や、
家長としての重圧、古くからの伝統と作法に
苦しめられる男親としての見栄や葛藤が見え、
本当に深く考えさせられました。
僅か四歳にして失明を告げられた娘、
それを必死に治療しようとする家族、
やがて実母の死、父親の病、十四歳にして
訪れた突然の全盲…、幾多の試練が次々と
一家を襲います。
これだけ読むと、悲しくて切ない物語のように
感じますが、読み進めていても不思議なことに
悲壮感はなく、むしろ苦難を乗り越えて力強く
生きようとする主人公に勇気をもらえます。
父親の意造も様々な過ちを繰返し、娘に反発
されては折れ、考え直し、そして苦悶する…。
愛する全盲の娘を心配するあまり、 些細なこと
で激昂したり泣いたりと、今となって考えると
父親だからこその決断だったんだ… と、理解し
支持することができます。
ここでは詳細なあらすじ、結末は書きません。
図書館や書店などで手に取って
読んでみてください。
お奨めです。
hidechichi